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しかばねRUIRUI 新館

公式とは関係ありません。 趣味のブログです。 腐的表現があります。 鎧伝サムライトルーパーの女性向け同人ブログ。 (当秀・ラジ秀)イラストと小説を展示したいです。 投稿板 http://www14.oekakibbs.com/bbs/orirukokunn/oekakibbs.cgi

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ちゃとくん 作 当秀SS
                                                                                                                                                                                             

風の帰る場所   ちゃとくん 作

「一目ぼれしちまってさ~」
帰った早々、こんな聞き捨てならないセリフが、当麻の耳に飛び込んできた。
あれは、間違いなく秀の声。
見ると秀は器用にも料理をしながら誰かと電話をしていた。
「いやー。こんなことってあるんだなー。一目でもう目が離せなくなっちまってさ。」
話はまだ続いているようだが、当麻はもう、それどころではなかった。
・・・ヒトメボレ?
手に持っていたフルフェイスのヘルメットが、大きな音を立てて床へ落ちた。
その音で当麻の存在に気づいた秀は、肩の間に受話器を挟んだ状態のままで、
器用に振り向く。
「お。帰ってたのか。おかえりぃ。」
秀は、いつもとまったく変わらない様子で、当麻に笑いかけてくる。
「ん。当朝帰ってきた。悪い遼。また電話する。」
どうやら電話の相手は遼だったようだ。

秀は肩に挟んでいた受話器をおくと。
手なれた様子で皿を並べ始めた。
「当麻、メシ、もうすぐできるぜ。」
なんだかいつもより機嫌が良さそうに見えるのは、気のせいだろうか。
「一目惚れって、今言ったよな。一目惚れって・・・・」
誰が?誰に?ヒトメボレーーーー?!
聞きたいけれど、怖くて聞くことができない。
「あ、聞いていたんだ。ちょうどいいや。当麻、ちょっと話があるんだ。」
”一目惚れ”のことばを聞いた途端、秀は明かに表情を変えた。
はにかむような。困ったような。
話だって?
ーーー好きな子ができたんだ。
ーーー俺と別れてくれ。
当麻の頭の中で。考えたくないようなセリフが、リアルな音声と画像つきで回る。
そんな。
「そんな話なんか、聞きたくない!!」
「お、おい当麻?」
当麻は、足下に転がっているヘルメットを掴むと。
驚く秀を後目に、そのまま外へと逃げ散らかした。
   

めちゃくちゃにバイクを走らせていた。
スピードメーターはすでにレッドゾーンを回っている。
スズキのGSX1300R。
当麻の愛車だ。
初めてバイクに乗った時、似ていると思った。
空を翔んだ、あの感覚に。
風の中を斬り込んでいく爽快感。
スピードを増す程強くなる飛翔感。
天空の鎧は輝煌帝と共に花と散ってしまったけど、
当麻はそれに変わる翼を手に入れた。
GSX1300R。通称 ハヤブサと呼ばれているバイクだ。

コイツを手に入れてから、
自分を落ち着けるにも奮い立たせるにもバイクに乗った。
イヤなことがあった時。
むしゃくしゃした時。
勇気を出したい時。

そしてどんな時も、めちゃめちゃにバイクを走らせた後は、
秀が待ってくれていた。

よ。おかえり。何か飲むか?
当麻の大好きな、あの笑顔で。


バイクで逃げ出すことは、当麻にとって、儀式だった。
風を受け、空に逃げ、そして大地へ還るための。
   

あれから一週間。
当麻は、家へ帰れずにいた。
帰ったら、秀と話をしなくちゃならない。
そしてその話は、きっと当麻がずっと恐れていた内容に違いないのだ。


当麻には負い目があった。
秀の未来の選択肢を、無理矢理奪ってしまったという負い目。
皆で柳生邸で生活したいた頃、
当麻は長年押し殺していた秀への気持ちに、
煮詰まって、焦って、空回りして。
感情と欲情のままに、無理矢理、秀を奪ってしまったのだ。
一度。唇に触れたら止らなくなった。
抵抗する秀を押さえつけ、何の準備もない秀の体へ、
無理矢理自分をねじ込んだ。
その時も。当麻は秀の前から逃げ出した。
つじつまのあわない理由をでっち上げて、
1人で大阪に帰ってしまったのだ。
秀は、そんな当麻を、迎えに来てくれた。

大地がその身の上に全ての生命の存在を許すように。
あれだけ憎んでいた螺呪羅をあっさり許したように。
秀は当麻を受け入れた。

ーーー俺は、秀が自分以外の人を選んだら、
それを引き止めることはできない。
それがたとえ死ぬことと等しくてもそれを受けいれなきゃならない。---


家を飛び出したその日に
「仕事でトラブルが起きたからしばらく帰れない。」
というような短いメールを送ったきり、
当麻は秀に連絡が取れずにいた。
秀は毎日電話をくれた。
当麻がその電話に出ることはなかったけど。

一週間。
もう一週間も、秀の顔を見ていない。
声も聞いていない。
深夜まで仕事をして、その後夜通しバイクを走らせる。
明け方、会社の仮眠室で夢とも現ともつかないような仮眠を取り、
また仕事をする。
そんな日々が続いていた。

秀。
ダメなんだ。
お前がいないと。
いくら走っても。どれだけ風を受けても。

秀。
お前がいないと。
大地に還れない。
   

そんなある夜。
携帯が鳴った。
「当麻?どうせ夜中まで走っているんだろ?
うち来いよ。
お前のハヤブサなら2~3時間もあれば楽勝だろ?」
電話の相手は遼だった。

遼は甘い飲み物を用意して待っていてくれた。
いつも秀がそうしてくれているように。

「明日は日曜日だろ?
今日はうちの泊まっていけ。
まったく、その顔色はなんなんだよ。
ねぼすけのお前が、そんな生活しているからだぞ。」
遼の用意してくれたアイスココアを、ゆっくりと飲み干す。
俺はコレ、と、遼は冷蔵庫からビールを取り出した。

「お前のそんな顔、前に一度だけ見たことがある。
秀たち3人が、妖邪界に捕まったときだ。」
遼の瞳は、真直ぐに当麻を見据えている。

ーーーあぁ。この視線だ。変わっていない。
猪突猛進さでは秀とひけを取らない程の突っ走りの遼に、
あの時はずいぶん支えられ、引っぱられた。

そうだ。思い出せ。
あの時の恐怖を。
あれ程の恐怖を、いままで感じたことがあっただろうか?
たとえ失うことになったとしても、秀は生きてそこにいる。
秀は俺を許してくれた。
受け入れてくれた。
秀の好きな人が出来たというなら、今度は俺が、
秀を解放してやらなきゃ。

顔つきが変わった当麻のグラスに、
遼は微笑みながらビールをついだ。


「そうだ。お前に、いいもの見せてやるよ。」
「いいもの?」
遼が差し出したのは。一枚の写真。
そこに映っていたのは。どっしりとした
アメリカンのバイクだった。
「なんと50年以上も前の旧車でさ、
いまではほとんど手に入らないらしい。」
「50年!それはすごいな。」

確かにそこに映っているバイクは、
半世紀分の歴史を感じさせる存在感があった。

「だろ?インディアン・チーフっていうんだぜ。
海のずっと向こうの広大な大地を走っていたバイクだ。」

遼の静かな口調は、そんな広大な景色を連想させた。
しかし、遼が今乗っている車種とはずいぶんと毛色が違うバイクだ。

「遼、このバイクに乗り換えるのか?」
蛇足だが、二刀流をあやつる烈火の鎧の持ち主であった遼の愛車は。
スズキのGSX7508。
カタナと呼ばれるバイクである。
「俺?まさか。俺にはあのバイクが一番。」
当麻の問いに、遼は意味ありげに笑った。
「・・・ふぅん?」

その後、二人は眠くなるまでバイクの話で盛り上がった。
   

ドアを開けると秀は玄関に座り、
頬杖をつきながら、当麻を待っていた。

ごまかしの効かない。
まっすぐな瞳。
「この一週間で何キロ走ったんだ?」

あぁ。秀にはかなわない。
”仕事の都合で”なんて嘘も、
きっと最初からわかっていたんだ。

言わなきゃ。
勇気がなくならないうちに。

「俺はお前が断れないのを知っていて。
お前を抱いた。
沸騰した頭のどこかで確信があった。
ここまでしてしまった俺を。
お前は見捨てることはできないだろうって。」

秀の瞳を直視できずに、うつむく当麻。
蒼い髪が、
その表情をうまく隠していた。
「秀。もう。いいよ。お前の好きにしていい。
一目惚れの彼女んとこ、行けよ。」
秀の顔が見れない見たら泣いてしまいそうで。
「それが、この一週間走り続けた結論なのか?」
「・・・あぁ。もうお前は、自由だ。」

秀がため息をついたのが聞こえた。
「わかった。・・・ちょっと来い。」
秀は当麻の腕を掴んで外へ出た。
グイグイと強い力で、当麻を引っぱって行く。
「し、秀どこへ・・・?」
「紹介してやる。一目惚れの相手。」
当麻の胸がツキンと痛んだ。

会いたくない・・・!
弱々しい力で抵抗する当麻を、秀は構わず引っぱって行く。
手放す決心はついても、心はこんなに悲鳴をあげているのに。
ホントはいつまでもずっと、秀と一緒にいたいのに・・・!
   
                                                                                                                                                                                   
「当麻。見ろ。これが、俺の一目惚れの相手だ。」
バサッと音を立てて、秀は目の前のカバーを取り去った。
そこには、一台のバイクがあった。
つい数時間前、遼が見せてくれた写真の、その実物が。
インディアン・チーフ。
”海のずっと向こう。広大な大地を走っていたバイクだ”
遼の静かな声が、耳にこだまする。
ボコッ
「お前は、いつも1人で勝手にぐるぐる考えすぎるんだよ!」
唖然としる当麻に、こぶしとセリフが一緒に降ってきた。
「お前は、きっかけをくれた。俺は自分で選んだんだ。お前を。
俺だってなぁ。」

秀は当麻の胸ぐらをつかみあげると。
自分の顔の前へと引き寄せた。

「俺だって、お前が好きなんだよ。」

まつげが触れそうな程近くに、まっすぐな瞳。
秀は胸ぐらを掴んだまま、当麻にキスをした。
触れた唇は、暖かかった。


実は前からずっとバイクが欲しかったのだと秀は言った。
「だってお前、いつも気持ち良さそうにハヤブサに乗っていくしよ。
それにさ。バイクがあれば二人でツーリングとか行けるかなって。」

何でもいいから安くて手ごろなバイクを・・・と探していた所に、
出会ってしまったのだ。
大地のバイク、インディアン・チーフに。

「話しがあるって、なんだか深刻そうに言っていたじゃないか。」
「二人で暮らしてんだぞ。無断であんな高ぇ買い物できるかよ。」
「・・・・・・・・・・・・いくらしたの?」

バツの悪そうな顔をして、耳もとで金額を囁く秀。
0が6つもついたその金額よりも、
耳に触れた秀の唇の当麻がドキドキしてしまったのは。
内緒のはなし。

「今度さ遼のとこ行こうぜ。お前のハヤブサと俺のインディアン・チーフでさ。」

遼の次は、伸のとこだ!帰りには征士んちも寄って、
ついでに純にもお披露目して、最後にナスティちだな!

帰りに、とか、ついでに、とかいう距離じゃないぞという当麻のツッコミに。
細かいことは気にするな、と秀は笑った。

当麻の大好きな全開の笑顔で。

Fin
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