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ああ、良かった。濡れてない
今日、同居人に渡そうと思っていた箱を大切そうになぞる。
箱は少し、しめった程度ですんだようだ。
星ふる夜、
帰宅途中に凄まじいにわか雨。
天気予報は当たっていたが、寝坊してチェックせずに出かけてしまったのだ。
咄嗟にメッセンジャーバッグをシャツの中に非難させ、バイクを飛ばして帰ってきた所だ。
「!」
髪からポタポタと滴が落ちているのに俺気付いて、同居人が持っていた本を身体から離した。
「うひゃ~。濡れやがったな。!!!」
「・・・・ッックショ!」
「シャワー浴びてこいよ?」
「あぁ・・そうする」
言っている間に悠々と台所から同居人がカップを2つ持って現れた。
「遅くなったのなら、無理してかえってくることなかったのに雨にも降られて災難だったな!!」
「冗談、降り出したのはバイクに乗ってからだったんだぜ?それより、今日は一緒にいたかった」
同居人は、俺の言葉を軽くききながし
「よう、ホット・チョコレート作った。暖まるぜ」
「甘いのは苦手だ」
「まあ、そういうなよ」
少し口を尖らせ、俺はカップを受け取った。
「美味いだろ?」
いつもと同じように屈託のない顔でわらう。
(あぁ・・そうだ、俺はこの笑顔が見たくて帰ってきたんだ)
「熱くてまだ味がしない」
「意地っ張りだな」
白い歯を見せたまま、
俺の頭に乗っているタオルを上からわしゃわしゃと掻き混ぜた。
「シャワー入ってこいよ」
2回もいわれてしまった。
呆れた様な声に、(それもそうだ)と素直に腰を上げシャワールームへ移動した。
*
シャワーの音を聴きながら、空になったカップをチン、と指る先で弾く。
「さて、よるは長いぞ」
先程とはまた違う、悪戯な微笑みを浮かべ
待つ。 -
「冬休暇・ウィンターホリディー」
年末12月のくそ忙しい時期に奴が、部屋に居座っている。
「いや~。なんか研究承認がおりるまで暇になってよぅ。開店休業状態。中途半端だから、有給くっ付けて冬休みにしたんだ。」
「それは、いい。それはいいけど。なんですぐ俺のうちにくるんだよ!」
「ひとりで部屋にいると食べ物とか他いろいろめんどくさくってよ。」
「うぅぅ・・ようするに、お前は忙しい俺にいろいろ相手して欲しいと。」
かみあわない会話に頭が痛くなってきた。こいつといると俺は堕落する・・間違いない。
俺、秀麗黄のうちは横浜の中華街にある。
一階は店で。二階が家族で暮らしている自宅。三階がワンルームで賃貸になっているんだが。
俺も兄弟も育ちすぎたため。今は三階のワンルームをひとつ俺の部屋としてもらっている。奴、羽柴当麻は見た目はいい。頭もいいんだが。人としてどっかおかしいんじゃないか?と思うことがままある。
二階の俺の自宅では出来る奴のようにふるまっているんだが。三階の俺の部屋にもどると、ダメ人間になる・・「何でもいいけど、手伝えよ~。働かざるもの食うべからず。」
俺はダメ人間にそういうと、店に行く仕度を始める。「また。洗い場ですか~?」
奴はどっかで見た犬のように目をうるませている。肉体労働は向かないのですか。
と勝手なことを言っているので、クッションを投げつけてやった。***
洗い場で俺、羽柴当麻は山盛りの皿を洗っている。
冬の厨房も地獄だった。
末端冷え症の俺の足先は冷たく感覚がなくなった。
熱い湯と洗剤の入った桶と、冷たい水で交互に皿を洗っていると。
手がふやけて、指先から血が出てきた。「あぁ~。技術者の白魚の指が~。」
俺が叫ぶと。秀がこちらを睨んできた。
オ~怖い怖い。早く終わらないかな。俺は秀の部屋のこたつを思いえがいた。
こたつで足先を温めていると、本当に幸せな気持ちになる。
秀の足にぶつかって、「冷て!」と怒鳴られるのも、子守唄のようだ。
なにか、この感覚は、昔、宇宙を漂っていたときを思い出される。
あの時も、遠くに近くに秀の気配や声を聞いたような。「おい。」
秀が洗い場に入ってきた。「お前、手を見せてみろ。」
俺があかぎれた、手をみせると、顔をしかめた。
「後で薬と手袋だな。」
「手袋?」
「薬が良く効くように密閉するんだよ。
あと、お前手が冷たいぞ。体質を変えるよう努力しろよ
触れられる身としてはたまらないんだよ。」そういいながら、出ていった。
俺は、その一言一言が嬉しくって、顔がニヤニヤするのを止めることができなかった。***
夜、下の秀の家でご馳走になり、
そうそうに秀の部屋に引き篭もった。
「おぃ。手のあかぎれ見せて見ろ。」
そういう、秀の唇を俺の唇で覆った。
「薬も絆創膏も手袋もごめんだ。折角のお前の肌の感触が楽しめなくなる。」
舌を入れてねっとりと吸うと秀も返してきた。下にお前の家族がいて団欒してると思うと興奮するなぁとか、
あんな凄いことや、こんな凄いこともしてみたいとか、色々考えながらシャツをたくしあげる。
「インターフォンをあげて、下に声を聞かせたい。」
つい、心に思っていることが、言葉に出てしまった。
「一体、何想像してんだ!テメェー!!」
俺のからだの下から怒号が聞こえてきた。
物心ついたときから、自分の家族は崩壊していて、もう子供としての扱いをうけていなかったから、人への接し方は自然に決まった。
素の自分をさらす事はなかったし、意味がないと思っていた。
秀に会う前はそう思っていた。他人の為に、自分を傷めるなんて馬鹿馬鹿しいって当然みたいに。
秀といると、緊張がとけて何でも口に出てしまう。
いや、何でもじゃない、口に出してないことは、結構ある。俺は・・俺は秀に救われた・・秀といて本当に・・
俺は秀を・・
俺は秀が・・・・
***羽柴当麻という奴は、
普段は大人びた、俺にはわからん理屈をこねているが。
時々、置き去りにされた犬のような、不安な表情を見せる
俺はそれが気になってほおっておけなくって、ズルズルと今までくされ縁でつきあっている。
つきはなさい俺も、悪いか・・・俺・・堕落している。
いつからこんなことになってしまったんだろう。
昔からの幼馴染で馬鹿やっていた。奴に呼び出されて聞いた言葉。
ここにくる前は死にたいと思えるようなことがあっても、実感できなくて、あぁそうかぐらいにしか感じていなかった。
お前と一緒にいるのが楽しくって、いつの間にかお前のことしか考えられなくなって。お前がほかの誰かと仲良くしていてもやける。
スマナイ・・でも、俺、秀が好きなんだ。その言葉は今も俺を縛っている。
***
山下公園の芝生に寝転ぶ。
鳥がいく。
あいつは、よってくるカモメと戯れている。
天空でなくなった奴に、まだ、鳥がよってくる。
やっぱり人間よりいいのか?たった一人で宇宙をさまよっていて寂しいとか思わなかったのか。
俺はお前に会えなくなると寂しい。
言ってはいないけど、恋しくて声を聞きたいときもある。
いつもお前のことを思っている。能天気にこっちに手を振ってやがる。
お前、俺がこんなに色々考えてるなんて思ってもいないだろう?***
大晦日だ。
流石に店にくる客も減り、みんな自分の家族と新しい年を迎えるのに頭がいっぱいだ。
「やっと、終わった。寒び~。」
俺は秀の部屋に入るなり、炬燵にもぐりこみ、スイッチを入れる。
「お前は、猫か?」
秀は呆れ顔で電気とエアコンとテレビをつける。テレビでは、行く年来る年をやっている。
「さあ、新年のカウントダウンです。10、9、8、7、」
何を思ったのか。秀はいきなり部屋の電気を消し、窓を開ける。
うわ、寒び~~。冷たい風がカーテンをゆらす。
「3、2、1、0」
テレビも消されてしまった。
一瞬の静寂のあとに
横浜港に停泊していた船が一斉に汽笛をならす。「新年あけましておめでとう。今年もよろしくな!」
秀を見ていると胸がいっぱいになってきた。
「今年といわず、よろしく。」俺は答える。汽笛が近く遠く俺たちを祝福しているようで、
開けっ放しに窓から風が吹き込むのもおかまいなしに、俺たちはいつまでもいつまでも聞いていた。いつまでも、よろしく。